ただし、実際に誤訳をチェックしたり、見抜いたりするという観点からすると、批評されている本ごとに問題点を洗い出すという書き方であったため、心得や姿勢を身に付ける上では有意義であったが、体系的に誤訳を防ぐ、修正するという点でいささか物足りないものもあった。Aという問題点があれば、それを固めて教えてくれるような指導書の方が実務的にはありがたいのである。
これは仕事の上で、他の人の翻訳文を読み、短時間のうちに誤訳・問題点を察知し、これまた短時間で修正しなくてはならないためであって、読み物としての別宮さんの本の価値が低いということではない。自分としては、瞬間的な問題解決力をもっと涵養してくれるようなものが必要だということである。
そこで折に触れ愛読しているのが、中原道喜著、『誤訳の構造---英語プロの受験生的ミス』(吾妻書房、1987)である。同書の帯にはこのように記されている。
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英語を教える人、英文翻訳者の必読書
この本は「あらさがし」の本ではない。誤訳を通して、実践的に正しい英文の読み方を解明した本である。
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事実、本文を読めば、くだらない人格批判や揚げ足取りは何もなく、多数の誤訳文を文脈と共に取り上げ、なぜそういう誤訳が起こったのか、どこを勘違いしたのか、類似の間違いにどのようなものがあるかを、ひたすら懇切丁寧に教えてくれるのである。
しかも、章立てが「名詞」「前置詞」「動詞」「助動詞」「冠詞」「形容詞」「副詞」……「関係代名詞」「仮定法」「比較」「否定」……という具合に文法的な分類なのだ。これは実にありがたい工夫で、上の別宮式の誤訳指摘に足りなかった体系的な学習形式という面を補ってくれている。
「関係代名詞」「仮定法」「否定」など、何度も繰り返して読むに値する部分である。
とはいえ、まとめて一気に読んでも身につかない。外出するときの電車の中などで、随時少しずつ読むようにしている。
また、英文→誤訳文→解説という書き方になっているので、自分はまず英文を読み、頭の中でそれを翻訳し、それから誤訳文を読んで、どこがどう誤訳しているのか見当をつけてから解説を読むことにしている。解説と自分の見解が一致したら、その項目の冒頭に○をつけ、部分的に当たっていれば△、全く間違っていたら×をつける。
次に読むときには、△や×のところだけを見直せばいいので効率的という意味もあるが、これはゲーム感覚で勝ったか負けたかという意識で行っている部分も少なくはない。いわばケータイでテトリスをしている感じにもたとえられようか。
楽しく面白く翻訳の実力がつくのだから、ますます手放せない一冊である。



